高校野球とは

高校野球200年構想育成(審判)

若手を育て、新しい成り手を発掘

高校野球を支える仲間を増やす

高校野球を支える重要な存在である審判委員を育成するため、高校野球200年構想では、審判委員の人材発掘のための体験会や、若手審判の技術向上を目的とした講習会の開催に助成をしています。

高校野球の審判委員は、単にアウト・セーフ、ボール・ストライクを正確に判定するだけでなく、選手を励ましながら適正な行動を促し、きびきびとした清々しい試合運びを選手たちとともに作り出す役割も果たしています。

「審判ってどんなことをしているんだろう」
という方の興味・関心に応えたり、
「卒業後も審判として高校野球に関わりたい」
「審判委員としてのレベルアップのために勉強したい」
という方の助けになったりする機会を作り、現役の審判委員らが指導しています。

高校野球の審判を身近に感じてもらうとともに、審判委員の方々が何にやりがいを感じているのかなどに触れてもらい、審判として高校野球を支えていく仲間を増やしていくことが事業の目的です。

和歌山県高野連の人材発掘・育成取り組み

和歌山県高野連は2025年2月23日、和歌山市にある県立和歌山商業高校のグランドで「審判実技研修会」を開きました。高校野球200年構想の助成を受けたこの研修会で目を引くのが、参加者の顔ぶれが多彩で若い人々が多いことです。

県高野連審判部に所属する審判委員29人、加盟校の責任教師ら指導者13人に加えて、国立和歌山大学の硬式野球部員13人、将来の審判委員を志す加盟校の部員2人、そして会場である和歌山商の部員11人も受講者として参加しました。

受講者たちは初めに、基本的な立ち姿や走る姿、塁審と野手との距離感、立ち位置などについて手本を見せてもらい、動作を交えて「ヒズ アウト」「セーフ」とはっきりとした大きな声を出す練習を繰り返しました。

和歌山県高野連主催の審判実技研修会で両手を挙げて「ファウル」をコールする学生たち=2025年2月23日

一塁、三塁の塁審がライン際の打球を判定するは際、フェアのときは黙ったままで腕を真横に伸ばすだけなのに対し、ファウルのときは両手を挙げ「ファウル」「ファウルボール」と大きな声を出すという違いがあることを学びました。

さらに、ノックをしてもらって、外野飛球の追い方、打球判定のやり方なども訓練しました。和歌山大4年の丸山椰尋(やひろ)さんは「打球の行方を追った塁審の空いた所をカバーする、ローテーションもある。これほど密に連携しているとは思いませんでした。具体的にどう動いたらよいか知ることができ、とても勉強になりました」と話していました。

「審判委員41人を2年で50人に」

県高野連ではもともと、審判実技研修会は夏の選手権和歌山大会に向けて5月に行っていましたが、2年前からはこれに加えて、春のシーズンイン直前である2月下旬にも実施しています。

県高野連の吉野久幸・審判部長によると、その理由の一つは、経験の浅い審判委員や加盟校の指導者たちが審判技術を磨ける機会を増やし、春の公式戦から自信を持って務められるようにすること。さらに、大学や高校の野球部員たちにも基本的な審判技術を学んで理解を深めてもらい、将来の人材確保につなげるためです。

和歌山県高野連の加盟校は2024年度、39校でした。これに対し、県高野連審判部に登録している審判委員は36人。ただし、春、夏、秋の大会とも常時務められる審判委員は25~30人にとどまります。

夏の選手権和歌山大会の会場は紀三井寺公園野球場1カ所のみ。1日あたり最大3試合で、審判委員は少なくとも12人必要です。日々の割り当て人数を確保するのも簡単ではなく、雨天順延が多くなると再調整にかなり苦労するそうです。

そして、春季、秋季大会では同日に2、3会場で行われることもあり、1日あたりの試合数が増え、さらに難しくなります。3回戦までは加盟校の指導者らが審判委員を務めることもあります。

そのため、2年ほど前から、大学生や高校生にも研修会への参加を積極的に呼びかけ、審判委員となる人材の育成に力を入れてきました。審判委員の登録者は24年度末で3人が引退し、25年度は新たに8人が加わって41人になりました。県高野連の髙津亮・専務理事は「審判委員不足の深刻な状況からは改善しつつありますが、まだ少ない。大学生や高校生への働きかけを強め、現在41人の登録者数を今後2年で何とか50人くらいまでに増やしたい」と話します。

三塁ライン際の打球判定を練習する受講生たち
コロナ禍の独自大会を機に和歌山大が協力

新型コロナウイルス感染拡大によって第92回選抜、第102回選手権の両大会が中止された2020年の夏、和歌山県も独自大会を実施しました。その際、グラウンド整備や場内アナウンスなどの大会運営補助に高校生が携われなくなり、代わりに行ったのが和歌山大の硬式野球部員たちでした。これを機に翌21年以降の夏の和歌山大会や22年春、秋の近畿大会でも和歌山大生が大会運営を補助するようになりました。

和歌山大硬式野球部は近畿学生野球連盟に所属。2024年の1部春季リーグでは2季連続6度目の優勝を飾り、同年6月の第73回全日本大学野球選手権大会に2年ぶり4度目の出場を果たすなど実績あるチームです。

大学リーグ戦で審判を務めている部員が、県高野連主催の審判実技研修会にも参加することが十数年前から続いていました。県高野連の審判委員の中には、現在30歳前後の和歌山大出身者が3人います。このうちの1人である西岡俊揮さんが、箕島高出身の橘勇次さんとともに、24年夏から甲子園大会の審判委員も務めるようになったことは、後輩たちの良い目標になっているそうです。

髙津専務理事は「こういった結びつきが下地にあり、大会運営面だけではなく、審判委員としても活躍してもらうことになりました」。

指導にあたった和歌山県高野連審判部の西岡俊揮さん
大学と事業連携し、大学生も審判委員に

県高野連は2024年のシーズンイン前、和歌山大硬式野球部との事業連携を正式に申し入れ、大学側も了承しました。連携事業の内容は次の通りです。

  • ①和歌山大硬式野球部員が県高野連の公式試合で審判委員となる
  • ②県高野連加盟校の練習試合で審判委員となったり、技術研修を行ったりする
  • ③県高野連審判委員と交流し意見交換を行う
  • ④県高野連加盟の高校生と実技交流や意見交換を行う

そして、2024年の春季大会から、現役大学生が審判委員を務めるようになりました。

この大会では、審判委員不足を痛感させられる出来事がありました。雨天順延が相次ぎ予備日の平日に試合が組まれたため、大会役員2人が急きょ塁審を務めました。試合中、1人が脚の肉離れを引き起こして続行できなくなり、さらに別の役員と交代せざるを得ませんでした。このとき、たまたま和歌山大の部員が観戦に訪れていたことが後になって分かりました。そして「授業や試合のない日であれば、あらかじめ大学生を割り当てておくこともできる」という教訓を得たそうです。

審判委員の説明を聞く学生たち。中央は丸山椰尋さん

25年のシーズイン前にも、和歌山大硬式野球部との事業連携を結びました。2月23日の審判実技研修会に参加した丸山さんは2020年に県立熊野高校3年生で、コロナの影響を大きく受けた世代です。「独自大会の運営を大学生の方々がやってくださり、ありがたかった。自分が大学生になり、高校野球のためにやろうという気持ちはずっと強くありました」と話します。卒業後は県立学校の常勤講師として教職に就き、県高野連の登録審判委員にもなり、4月中旬にあった春季大会1回戦の試合で初めて三塁塁審を務めました。「今度は夏の大会でも務められるよう、日々頑張ります」と意気込みをみせます。

髙津専務理事は「意欲にあふれた若者が増えていると感じます。良い流れができるよう、地道に取り組んでいきます」と話しています。

高校野球200年構想

OSZAR »